「デカパイ狂想曲」
忘年会シーズンですね。
僕のバイト先も、時期柄忘年会を行う団体が多い。
昨日もそういったグループが三組程いた。
一年を締める忘年会、楽しさのあまり我を忘れて酒を飲む気持ちもよく分かるけど、
やはり酒は飲んでも呑まれてはいけない。前後不覚になるまで飲んだ時は、大抵ロクな
ことにならない。
だから年齢が経つにつれ、これまでに遭った痛い経験から己の酒量というものを理解す
るようになるためそうそう酒に呑まれるということは無くなるはずなのだけど、そううまくはい
かないことも人間の宿命(さだめ)。飲むほどに酒を欲してしまい、結局バーストしてしまっ
たり、上司に勧めらるがままに飲むうちに、死ぬ程飲んでしまった、ということまあるかもし
れない。
昨日の忘年会のうちの一組がとにかく酷かった。男性三人に女性四人という構成だった
のですが、ビールピッチャーを水のように飲み、焼酎のボトルを破竹の勢いで空にする。
何が彼らをそこまで酒に駆り立てるのか、と心の底から震えながら括目して見てみると、
一人の女性が大スパークしているのが原因のようだった。
その幹事らしい女性は、何かコイツは「ニューヨーク直行便」とかアメリカの通販番組に出
られるんじゃねえかってレベルのダイナマイツバディでして、胸なんかは比類なきデカパイさ
を誇り、病床に伏せったおじいちゃんなんかが見たら他界しても何ら不思議ではないくら
いのポテンシャルであった。
おいおいスゲエ乳だな、この乳は人を殺せるぜ、と思いながら顔を見てみたんですけど、
何ていうかイエローキャブの根本はるみ、彼女の似顔絵を左手で描き殴ったような感じ
で非常に個性的というか、まあブスというか、そんな感じの顔でしたね。乳だけイエローキ
ャブ。
そんなアマゾネスみたいな女性だったのですが、とりあえず便宜上デカパイと呼称しておき
ます。
で、とにかくそのデカパイが周りの人間に飲ませまくるわけでして。何故だか周りはデカパイ
には逆らいがたいらしく、皆勧められるままに飲んでいました。
酔っ払ってきたせいか彼らは狂ったように盛り上がり始め、ある者は叫び、ある者はドリン
クをブチ撒け、ある者は一気飲みをしたり、と完全にサバトの如き様相を呈していた。
これにはさすがに周りのお客さんも嫌な顔をしていましたが、僕は前にも述べたようにバイ
トに対するやる気なんてものは全くないので、そんな狂乱の宴が如き有り様を見てもまる
っきり知らんフリ、「デカパイの乳の半径をrと置換した場合、彼女のパイ角度は…」と、と
思考力の向上に余念がない。
というか、その宴会の席は元々2時間で終わる予定だったのですよ。だからこちらが目くじ
らを立てなくとも、どうせ2時間すれば帰る訳であるし、まあええべや、とある程度の楽観
はしておりました。
そして2時間後−−−
完全に出来上がった彼らは、この場でセックスでも始めちまうんじゃねえのってくらいの勢
いで酔っ払っていた。もうホント、とにかく早く帰ってもらいたい、帰らせよう。
と思っていたその時に事件は起こった。
そのグループの内の一人の男が、鬼の形相でスタッフの一人に詰め寄る。
「おい!アンタのところのトイレはどうなっているんだ!
床が濡れているじゃないか!
おかげでオレの靴下が濡れた!弁償しろ!」
いやいや、おかしいやん。濡れた→弁償って、おかしいやん。
そんなんやったら僕のトランクスは毎晩弁償やん。
おそらく他の人が発した尿的なモノが、本来意図した軌跡を描かずトイレ内を浪漫飛行
した結果、トイレの床に着水、その尿を客が踏んだということでしょうけれども、そんなの
はこの人の不注意であって怒るだなんて迷惑千万。しかも弁償を要求とは、いやはやア
ヌスの小せえ野郎だぜ。ハッキリ言おう、死ねと。
確かに「トイレは店の鏡」という言葉があるように、トイレは常に清潔であって然るべきでし
ょうが、しかしながらいついかなるケースにも対応するというのは不可能な話。大体いつ
尿が床に撒き散らされるか、なんて細木数子にだって分かるまいよ。
とりあえずこれ以上ゴタゴタするのは得策でないので、コンビニにて安い靴下を買ってその
場を収めることに。このサノバビッチが。一刻を争って死ね。
まあともかく、これでようやくこの地獄のサバトから解放されるぜ、と思っていたら、今度は
デカパイがトイレの前で立ち往生している。何だ、でっかいクソでも垂れて流れなくなった
んかいな。
と思ったらデカパイの野郎、突然狂ったようにトイレのドアを叩きながら
「大丈夫?ねえ大丈夫?とにかく開けて!」
と、狂犬病の犬のように叫んでいる。おいおいデカパイさんよ、そんな浮気相手の家に乗
り込んだような勢いで、しかもそのマッスルハンドでドアを叩かれちゃあボブサップだって裸
足で逃げ出しちまうぜ。ドアの向こうに死を予感せざるを得ないぜ。
なにやら酒に酔いすぎたメンバーの内の一人がトイレから出てこないらしい。ウチのトイレ
は男女一つずつしかないので、こういったことをされるとかなり迷惑である。敢えて言おう、
死ねと。
とにかく現状の確認をしないことには始まらないので、スタッフがその場に赴き中の様子を
伺ってみる。もしかしたら眠りこけているのかもしれない。どれどれ。
「ウォエ ゲホ ウェップ オゲー」
中でジャイアンリサイタルでも開かれているのかと勘違いしてしまいそうなほどポップな声
が聞こえてくる。間違いない、こいつはゲロだぜ。
おいおいもう勘弁してくれよ、と思いながらチラリとデカパイの方を見てみると、何やらメン
バーの男と談笑していやがる。いやーんもう違いますよーとかなんとか言ってやがる。誰か
トカレフ持って来い。
とりあえずこのまま立て篭もられても埒が明かない。幸い我が店のトイレの鍵はシンプル
な設計なのでコイン一つあれば容易に鍵が開く。トイレが一つしかないこと、周りのお客
さんも迷惑していることを説明し、鍵を開けさせてもらった。
ガチャリ
と音を立てて本当に簡単に鍵は開いた。フー、これでやっと事態が収まるぜ。
とか思っていたら、デカパイの野郎が
「ねえ○×、大丈夫?開けるよ?服とか脱いでない?」
とかバファリンよりも無駄な優しさを如何なく発揮し出す訳ですよ。
いやいや、どう考えても若い婦女子が下半身をペロリと出したままゲロなんて吐くわけね
えだろ。排泄と嘔吐を一片にこなすだなんて、そんなマルチタスクは安田大サーカスにだっ
て無理だぜ。
しかしデカパイのヤツは、ドアの向こうから返事がないことを「服を着ていない」と解釈した
らしく、いやーんどうしよー困っちゃったー、とか何とか甘い猫なで声で抜かし始める。鼓
膜が弾け飛ぶかと思ったぜ。
それから10分くらい経っても状況が一つも変わらないので、いい加減業を煮やしたウチの
店長が
「いいっすかー 開けますよー」
といって強引に開けてしまった。デカパイは我関せずと言った面持ちでグビグビ水を飲みだ
す始末。金正日はコイツの拉致を急ぐといいと思うよ。
ガチャリ
再び音を立ててカギが開いた。今度はスタッフ自ら、恐る恐る中の様子を確認する。
先にも述べたがこの店は絶望的に面積が狭い。それ故トイレなんてのはその煽りを受け
て究極に狭いがため、中に人が入っている状態で外からドアを開けられると、ドカンを人
に当たるため途中までしか開かないのだ。そのため、中の人に当たらないようそっと開いて
チラリと覗いてみた。
もう、見事なゲロの大海原が視界に飛び込んで来るわけですよ。ヨーソロー!
いやもう、この世の苦しみとか悲しみとか絶望だとかを一身に受け止めたようなゲロが滔
滔と広がっておりました。アアーアッアー、殺りてえ。
しかも開けた途端に中の女子は「大丈夫だから!」とか言って有無も言わせずバタンとド
アを閉める始末。ここは思春期の少年少女の部屋か。
しかもデカパイのヤツ、またもや「どうしよー」とか甘ったるい声で嘆いてるんですよ。黙れ
このメス豚が。ブヒーと鳴け。
その後も「鍵を開ける→中の人が閉める」といったやり取りが数回続き、いい加減怒りの
メーターがマキシムに達しそうな時、突如デカパイがトイレの中に向かい語り始めた。
「ねえ、○×。お酒飲みすぎて体調崩しちゃったのかな?
辛いよね。気持ち悪いんだろうね。
でもさ、ここはお店のトイレだし、他の人だって待ってるの。
だから迷惑掛けないように、とりあえず出てきてくれないかな?」
なんと、先ほどまで悪魔の如き粗暴さを誇っていたアマゾネス・デカパイが、聖母の様に
優しく語り掛けているのが聞こえるじゃないですか。このテンダー・ボイスは、赤ちゃんを永
眠に誘うほどのポテンシャルを秘めていそうだぜ。とにかくデカパイもやるじゃない、搦め手
で攻めてきやがって、パイオツ以外でも物事を考えられるのだな、と思ってデカパイの方を
チラリと垣間見た。
いや、なんかデカパイのケツがモリモリ露出しているんですけど。
解説しますと、何だか最近の若い娘さんはローライズだかローションプレイだかといったズ
ボンを好んで履いてますよね。
で、ああいう類の履物って、かがんだりした時に不意にパンツがチラリ、といったロマンスが
あって僕たち男はドキドキムネムネしてしまうのですけれども、どうやらアマゾネス・デカパイ
もそれなりの若さを備えていたらしくそのフェラチオだかローライズだか言ったスボンを履いて
たんですよ。でもそれは人知を超えるデカパイのことです、人並みにパンツをチラリといった
ことをする訳がなく、パンツなんて影も形も見えない。そしてパンツを飛び越えていきなり
ケツがチラリというかボロリと外界にコニャニャチワ!しているわけですよ。いやはやこいつは
すげえ破壊力だぜ。思わず心臓が止まるかと思ったぜ。
『美人のヒップに敵う癒しはないけれど、ブスのおケツは殺戮兵器』
とか、そんな格言が生まれるくらいの衝撃だった。間違いない、この尻だったら何回だって
死ねる。
しかもデカパイも酔っているのか、そういう風に己のケツが世界に向かってアウトブレイクし
ていることに全く気付かない。どころか、フフ、坊や、ここが見たいのね…と言わんばかり
に、ケツの面積が進駐軍の侵略の勢いの如くモロロンと広がって行く。誰か勇者はおらぬ
かー!あのクリーチャーを止めろー!
しかし仮にここで
「姉ちゃん、ケツ出てるぜ」
とか
「おしり、かっこ悪い」
とか前園ばりに忠告してしまったら、デカパイは怒り狂うかもしれない。
あのマッスルハンドで破壊の限りを尽くすかもしれない。僕の貞操も危うい。
しかしながら驚異的な破壊力を誇るデカパイのケツは、一向にナリを潜める気配はな
い。そして僕の網膜に、消し去りがたい悪魔の記憶として焼き付けられていくのである。
ギャーかずいー!僕のマインドをアサシンして!
そして、最後にデカパイは静かにこう言い放った。
「もう、本当に、どうしようもない娘だよ…」
いや、お前も大概どうしようもねえぜ、デカパイ。
こうしてデカパイ狂奏曲は幕を閉じた。
これから忘年会を行う方もいらっしゃるでしょうけれど、くれぐれも酒に呑まれてこのような
失態を演じることのない様に気をつけて下さいね。
酒は飲んでも呑まれるな。
この言葉を、これを見ているみなさんに送ります。
デカパイは、いつだって皆さんの心の中に潜んでいるのだから。アデュー。
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