「汁A」


前回は随分大層な描き方をいたしましたが、とりあえず遡ること十年前にバカなガキが
エロに目覚めた、という認識で結構です。

お気づきかとは思いますが、前回述べた「ハカセ」だの「神童」などっといった記載は
全くの虚偽であり物語を面白くするためのスパイス、言い換えれば優しいウソです。
 
牛乳の底のようなメガネどころか、マサイの末裔かの如き驚異的な視力を誇ってましたし、
現在でも裸眼で両目とも2.0あります。
 
神童どころか、五才の時には何を狂ったのか近所の住民が所有する自動車の天井に
ズドンと立ち上がり、試合に負けたフーリガンの如くジャンピン・ジャック・フラッシュをかまして
一部を破損、ウチの親は修理費を請求されてましたぜ。「神童」っていうか「震動」ですよ。
ウフフ。あ、こりゃあダメかもしれんね。
 


そんなカミングアウツはどうでもいいですね。
前回の廃品回収にてエロに開眼したはいいものの、
何分小学生ですからセックスをするだなんて天上人の話ですし、
それ以前にエロ本を手に入れることすらミッション・インポッシブル。
せいぜい出来た事は、今と違い当時はエロに対して規制の緩かったジャンプ誌上で
連載されていた「電影少女」を貪るように読むくらい。ゲヘヘへ、愛ちゃん、ゲヘヘへ。

エロに対しての耐性が低い小学生にとっては、電影少女を見ることすらタブーであり、
隠れキリシタンの様に読むことを余儀なくされたのだった。

しかしながらそれはあくまでも二次元な訳ですよ。
僕らが生きているのは三次元であって、実在する女性にこそ意味がある。
 
もしあのまま電影少女に傾倒し続けていたら今頃は秋葉原の中心で
「萌えー!」
だとか何とか叫んでいたかもしれません。

とはいえ友達が自転車置き場にエロ本はストックしていたから、写真的なものには
既に辟易としていたんですよね。静止画には感動がない。
躍動がない。
インリン・オブ・ジョイトイはいつだってM字開脚。

つまり映像が見たかった。しかしAVなんて借りれる訳もないし、所有している剛の者も
小学生にはまだいない。はてさてこいつは困ったもんだぜ

と思いながら新聞のテレビ欄を見ていると、興味深い番組があった。

 
「平成女学院」

 
なんとなく漂う淫媚な響きを貪欲に察知した僕は、そのタイトルに釘付けになった。
 
放送時間も深夜である。
 
こいつは、これはもしかしてもしかするかもしれませぬぞー。

 
しかしながら深夜である。
当時の僕は、5畳の部屋に兄弟三人が叩き込まれるという囚人のような環境であったし、
まずもって部屋にはテレビがない。となるとリビングになるのだが、そこには親が寝ている訳で、
なんの!とばかりに寝ている親の真横で小学生がテレビに向かってハァハァ言ってたら
間違いなく寺に送られる。
 
母上様、お元気でーすーかー?
 
と、トンチ好きな坊主になっちまう。

確かにエロは好き好き好き好き愛してる、なんですけどリスキーな方法は避けたいです。
なので次善の策をポクポク考えていたら、最近我が家はビデオデッキを買い換えて、
タイマー録画が随分簡単になったのを思い出した。
これや、これしかあらへん。

今考えると、ビデオが置いてあるのもリビングであり、
深夜親が寝ていると突如ビデオがガタガタ音を立て、エロ番組をバシバシ録画し始めるというのは
B級映画のポルターガイスト現象みたいな感じであり、
どっちにしてもかなりリスキーだったと思うんですけど、当時の僕はそんなことは意に介さず
ウヒョーヒョヒョ!辛抱たまらん!と狂喜乱舞。やはりエロは人を狂わせる。


適当なビデオテープをチョイスし、デッキの中にパイルダー・オン。
はやる気持ちを抑えながら、時にはコボちゃんを見て冷静さを保ちながら、
テレビ欄を慎重に確認する。
 
うっかりチャンネルを間違えて
 
「明るいスペイン語」
 
なんて録画てしまった時、我が息子閣下のお怒りは計り知れない。

何とか全ての手順を終えて僕はホッと一息ついた。
これで明日学校から帰った時には僕の新たなエロライフの幕が上がる筈だぜ。
期待で色んなところが膨らんでしまうぜ。


 
明けて翌日…。

 
デッキに入っているテープには既に僕の『大願』と言っても言いすぎではない映像が
 
「早くおいでよ!」
 
って待っている筈だけど、まさか朝っぱらから確認するわけにもいかなかったので、
焦る気持ちを抑えながらとりあえず登校し、音速の勢いで帰宅した。
 
閣下、もうすぐですよ。
(ウム。)


 
おそるおそるデッキを確認すると、カウンターが30:00で止まっていた。
無事に録画を成功していることを確認したらすぐさま家の鍵という鍵を掛け、
カーテンを閉め切り、僕は静かに再生ボタンを押した。
 
 
驚く程静かな気持ちだった。
僕も意外と冷静なもんだな、と思ったその時…


 
 
 
ドクン


 
 
 
 
慟哭。
 
 
突如訪れた胸騒ぎ。


 
 
 
まさか、これから起こるエロスの衝撃を敏感に察知した僕のシックスセンスが
警鐘を鳴らしているのか。
 
 
つまり僕はガンダムで言うところのニュータイプだったのか。
 
 
もしかしてこの歳で連邦の白いヤツが僕のソーラ・レイから登場するのか。
 
アムロ逝きまーす!なのか。

 
 
しかしどんな強大なエロだったとしてもそれに臆する僕&閣下ではない。
 
むしろエロければエロい程奮い起つ、そこに痺れる憧れるゥ!


 
とか何とか思ったり思わなかったりしているうちに、いよいよビデオが回り始めた。
 
我慢に我慢を重ねた息子閣下は浅間山みたいになっており、
 
ともすれば噴火確実・被害甚大、な状況だった。
 
これはエライことになるぜ。


 
そして遂に映像が動き始めた…





 
 
 
(♪ルールル、ルルルルールル、ルルルルールールールールー)



 
 
 
 
甘美なSoundが流れ始める。こいつは危険な予感だぜ。エライことになるぜ。



 
 
 
 
(♪ララララーラーラーラーラー、ラーララーラーラーラー)



 
 
 
 
「今日は、黒柳徹子です」



 
 
 
 
こいつはエライことになったぜ。



 
 
 
 
 
どうやら午前と午後を間違るというジーザス・クライストなミスをマジで犯したらしい。
 
 
興奮で怒張した息子閣下と共に食い入る様に画面を見てたら徹子がズドン!
いっそ殺せ。


いやいや、如何に性のパイオニアを自認する僕としても徹子は無理。
 
この番組が
「徹子の部屋」
じゃなくて
「徹子のヘアー」
だったとしても無理。そんな番組ある意味見てみたいけど。


 
ホント、失意のズンドコ、息子閣下もぶちギレ寸前だったんですけど、
神は存在したね。
 
その平成女学院って番組は平日は毎日放送してたんですよ。
だから今日改めてリトライすればいい。
しかも今日の失敗により、万一親に録画がバレても
 
「いやー、午前と午後を間違えちゃって、テへ」
 
と言えばいいことが図らずも判明した。
 
よく考えたら徹子の部屋を録画してまで見たがる小学生なんて
完全なキチガイでしかないんだけどそんなことはもうどうでもいい。
作戦は今夜だ。


 
そう思いながらテレビ欄を再び確認すると、もう一つ興味深い番組が僕の目に飛び込んできた。



 
「タモリ倶楽部」


 
おいおい、あの『タモリ』が『倶楽部』だってよ!
 
アワワ、なんかすんげえいやらしい。
これも録画しよう、すぐ録画しよう、やれ録画しよう。


 
振り返ってみると、何を狂ってそのタイトルにエロさを感じたのか皆目見当が付かないんですが、
 
おそらく深夜=エロ番組みたいな方程式があったんでしょうね。この子は可哀想な子なんです。
それで次の日も友人の誘いを蹴散らし疾風怒涛の勢いで下校。ホントにエロは恐ろしい。


恐る恐るデッキを見ると、無事に録画が完了していた。しかしまだ油断はできない。
昨日の悪夢が甦る…徹子…!

 
思わず気持ちが折れそうになった。でもまだだ!まだ終わらんよ!大丈夫きっと大丈夫、
今日はうまくいったはず――



 
 
 
乾坤一擲、ボクは再生ボタンを押したのだった。


すると
 
「平成女学院」
 
というタイトルがドドンと現れた。
 
キター ついにキター
 
踊る心。弾む胸。膨らむ股間。
 
内容としては、女子高生の制服みたいなのを着た若い女性が、三輪車に乗って
縦横無尽に走っている。パンツがチラチラ、というかモロモロしてる。
 
なんだかものすごくイケナイことをしている背徳感と、初めて目の当たりにする動くエロスに
ボクはクラクラした。
得も言われぬ思いがボクを包んだ。
 
 
エロいエロいとは言っても、やはりまだ幼いボク。
やり場の無い高揚感をかみ殺し切れない。
スッゲー!とかウッヒョー!とか叫びながらめくるめく官能的なシーンに歓喜した。
 
 
この時のボクに知識があったら絶対シコシコしてたね。
もうこの世の苦しみとか、憎しみとか、友情とか愛だとかを一身に受け止めて
永久とも思える時間をかけてシコシコしてたかもしれんね。
 
 
そんなこんなでシコシコをすることもなかった訳ですが、まだ日も高い内からせっせと
夜中に録画した番組を、しかもエロ、ミニスカで三輪車というひどくマニアックな番組を、狂喜しな
がら見てた。とんでもねえエロガキだ。ボクが親ならためらわずに子宮に押し戻す。
 
 
で、フーッと一息付いてたら次の番組が始まり出した。
あ、そうだ、タモリ倶楽部ってのも録画してたのか。スッカリ忘れとったよ。どれどれ。
 
 
いきなり画面いっぱいにTバックを履いたお尻がズドン。
 
 
ボクのボルテージはまたもやギュギューンと上昇。
次々と色んな尻が登場してくる。おお、オレは夢を見ているのか…?
 
 
理性という言葉がボロリと崩れ落ちていく。このままではヤバイ。どうにかなってしまいそう。
 
 
そこに一緒に住んでたおばあちゃんが帰ってくる気配がした。
どうやらタイムリミットのようだ。チッ!
 
と、悔しがる時間はない。音速の勢いで部屋という部屋の窓を開けて、
カーテンも全部開く。用意しておいたスーファミの電源をおもむろに入れて
あたかももう何時間もそうしていたかのようにビックリする程自然な様子で
スーパーマリオブラザーズに興じた。
 
「ただいま。あら、ゲームしてたの?」
 
「うん、そうだよ!えい、えい!」
 
パーフェクトな猫かぶり。
 
アイテムのキノコでマリオを大きくしたり小さくしたりして無邪気に遊んでいるこの少年が
よもや数分前まで自分のキノコを大きくしたり小さくしたりしてたとはお天と様でも気付くまいぜ。
 
 
その後、おばあちゃんが部屋から出ていくのを見届け、神をも恐れぬ早さで
恥辱にまみれたビデオを取り出した。これさえあれば僕はいつでもパラダイムできるぜ。

 
しかしどこに置いておこうか。
先に述べたように僕ら兄弟は三人で一つの部屋であり、毎日がプライバシーへの挑戦。
 
何を狂ったのか、兄弟はお互いの秘密を暴くことに躍起になっており、
学校から帰って来たら机が荒らされていたなんてことはザラ。
机の引き出しの鍵なんてものは常軌を逸したほど脆弱な防御力を誇り、
チンカスよりも役に立たない。鍵はいつだって容易に破られた。
渋谷の女子高生の股よりも簡単に開いた。
 
ある日引き出しの中身が洗いざらいぶちまけられていた時には心の底から震えた。
僕が描いたドラゴンボールだか何だか、一生懸命描いたんだろうけども、
もはや原型を留めていない図画が惜しげもなく部屋中にばら撒かれていた時は
身も心も凌辱された気分だった。
こいつは中世の魔女狩りだぜ。

そんな生きるか死ぬかの戦いの最中、うっかり机の中にビデオをしまおうものならば
0.5秒で白日の下に晒されることは想像に苦しくない。
 
狂喜の桜・マッドマックスと化した兄貴達は、多分その中身を余すことなく確認する。
中身を見てシコシコする。確実にシコシコする。
そしてシコシコした手で僕を脅す。
 
もしかしたら
 
「目の前でシコシコしろ!
涅槃の先が見えるまでシコシコしろ!
スピードの向こう側までシコシコしろ!」
 
って強要されるかもしれない。
不運(ハードラック)と舞踏(ダンス)っちまうかもしれない。
こうなるともう出家するしかないぜ。

熟慮に熟慮を重ねた結果、大胆にもリビングのビデオラックにズドン!
とブチ込むことに決定しました。
まさかこんなところにエロティカルなビデオが堂々と置いてあるとは神様だって気付くまい。
自分の悪魔的な頭脳にまたもや心の底から震えた。

確かこの日と前後して、僕達は夏休みという未曾有のオモシロイベントに突入。
学校という社会的な檻から開放された僕達はビックリする程スーパーフリー。
 
エアガンにダンゴ虫を詰めて射出したり、組み立てたプラモデルの各ジョイントに爆竹を詰めて
爆発→解体したり、せっせと働くアリをロケット花火にくくり付け、
夢という名の大空に発射してウヒョーヒョヒョと喜んだりと、殺戮の限りを尽くしてた。
とんでもねえガキだ。

それで、ウチは両親が共働きだったものですから、休み中のご飯はおばあちゃんが
一手に引き受けていました。でも毎日毎日三人分の昼飯を作るというのは
おばあちゃんとしても相当に面倒な作業だったのか、はたまた戦時中を思い出したのか、
まあよく分かりませんがとにかくある時を境に狂った様に毎日の食卓がソーメンで彩られた。
来る日も来る日もソーメンまみれ。
チンコからソーメンがニュルンと出てくるかもしれねえくらいのソーメン尽くし。
 
この惨状を目の当たりにしては、日本が飽食であるなんていうことはまるっきりのウソである
としか思えなくなり、たまりかねておばあちゃんに
 
「もうソウメンは嫌だよ!ギブミーチョコ!」
 
と訴えかけようとしたんだけど、
こちとら芋を食って戦火をくぐり抜けたんだよ、ガタガタ抜かしてたらナギナタでぶっ殺すわよ、
っていう目をしてたので、僕らは何も言えなかった。あれは人を殺せる目だった。

そんなこんなで四日連続ソウメンというカオスが渦巻く食卓で、僕達の我慢も臨界点に
達しつつありました。

ソウメンで必要な栄養分が取れる訳ねえだろ!お偉いさんにはそれが分からんのですよ!
と噴懣やる方なしな状態。もはや自分達はお中元処理班でしかねえな、
と酷く落胆していた。世が世なら暴動が起きていたかもしれない。

当時我が家では
『食事の時はテレビを観てはいけない』
という
「息子が学校の話題に付いていけなくなっても知ったことではないぜ」
とばかりの、神をも恐れぬアンビリーバボーな不文律があった。
普段なら従順な子羊である僕らはその規則を忠実に守るんですが、
度重なる悪夢のソーメン・スバイラルにぶちギレ寸前、
俺達は優国の志士かはたまたチェチェンの過激派か、みたいな心境だったので
「飯が不味いならテレビを見るしかないぜ」
という結論に達した。訳がわからんけど。

とは言え、その時間帯にやっていた番組はといえば、やたらめったら額が禿げて、
かつチンチクリンな中年の男性が踊り狂いながら

「♪何が出るかな♪ナニが出るかな」

と、クレイジー・ダイヤモンドな歌と共にサイコロを振る、
という世にも恐ろし気な番組しかやってなかった。

こういう時、僕らは決まって事前に録画したアニメを観てた。
我が家には色んな番組をアトランダムに録画した「いろいろ映す分」という、
マジカルボックスなビデオテープがあったのだ。
小堺一機の狂ったトークにはビタイチ興味のなかった僕らはガチョンとデッキに押し込んだ。

この時は確か僕ら兄弟が敬愛して止まない「ドラえもん」を観ていたと思う。
その話の中で何か望んだ食べ物がドンドコドンドコ出てくるという最強のテーブル掛けみたいな
ものが出てきたんですよ。
ドラえもんの作中における食事の描写って殺人的に美味そうじゃないですか。
これがまた、のび太がアホ面しながら美味そうに食べる食べる。
 
片や画面のこちら側では憐れな三兄弟が黙々とソウメン。
狂ったようにソウメン。
二階に住むヤンキーの兄ちゃんは狂ったようにザーメン。クソッ!

で、まあ何とかソウメンも胃袋に流し込んで、昼からは何すんべえかなあ、
アリの巣でも埋めに行くべえか、なんてテレビの画面を眺めながらボケーっと考えてたんですよ。
屁とかこきながら。




 
突如Tバックのケツが画面にズドン。




 
あらら、ドラえもんの新しい道具かしら。随分アバンギャルドな道具ですこ 何てこった

 
唐突に流れ始めるタモリ倶楽部。平和な食卓を一瞬にしてデストロイ。
た・た・たたたターモさーん!出る時間帯間違えてる、間違えてるよ…!

そういえば、誰もが手に取る様なビデオだからこそ逆に安心、
それにテープの後の方に録画しとけば誰も見ねえだろ、
とかズル賢く計算してこのビデオを使った気がする。
 
いやー、昼にのんびりドラえもん見てたら急に女性の尻ですからねー。
いやもうすんげえ驚いた。陰毛が生え揃うんじゃねえかってくらい驚いた。
そのまま陰毛が白髪になるんじゃねえかってくらい驚いた。


いや、兄貴たちはそれ以上に驚いてたね。
なんていうか、マンガで言う
『ポカーン』
って擬態語が見事に当てはまってた。
 
というか確実に止まってましたね、時が。
絶対にこの世のどこかで『ザ・ワールド』が発動してた。


本当ならこの時点で全力でビデオを止め、全てを無に帰す圧倒的な破壊工作を
行いたかったんですが、今動けば僕が犯人だということが確定してしまう。
シコシコさせられてしまう。
いや、僕の住む集合住宅全体に
『Tバック小僧』
とかいう最高に不名誉な愛称が浸透する可能性だってある。

さりとて黙っていたらどうか。テレビ番組の録画を一任されていたのは僕だ。
そうなると論理的にこの番組を録画したのも僕ってことになり、追求されるのは目に見えてる。
この時の驚きと焦りで脂汗がモリモリ出ている僕の様子を見ればすぐにバレるだろう。
こりゃあもうダメかもしれん。

行くも地獄、引くも地獄。もうあかんね、剃毛して出家するしかないね、
とおもむろにカミソリを手に取ったその時


「父さん…こんな番組録画してから……」


奇跡が起きた。神は存在を確信しました。
兄貴たちは勝手に
 
エロ番組=親父
 
と脳内で変換してくれたのである。ナイスプレーだよキリスト。

降って沸いたようなチャンスを逃す僕ではなく、川平滋英ばりに饒舌になり
ベラベラベロベロと親父に責任転換。

 
「俺達のビデオにこんなの録画するなんて、何を考えてるんだ!」

 
「お父さんがこんなだとは思わなかった!」

 
「もうホント、見るに耐えないよ。消そう消そう」


勝った。これでもうバレることはない。
この流れでビデオを消しても何の問題もないぜ。
そう思って兄貴達の顔をチラリと見てみた。

 
いや、もう目の玉飛び出るんじゃねえかって勢いで、画面に踊るケツ見てるんですよ。
たぶん兄貴が一人でいたらノータイムでシコシコしてたんじゃねえのってレベルで食い入ってた。

 
無言。もう一心不乱に目の前に広がるエロティカルな動画にかぶりつき。
マッドサイエンティストみたいな目つきをしてるんですよ。一切の妥協を許さない眼差し。


 
夏の昼下がり

血を分けた兄弟三人が卓を囲んでエロ番組―

なんていうかメチャクチャ泣けてきた。こんなはずじゃなかったのに。
 
 
この話は兄弟の間ではタブーとなり、兄二人も親父に詰め寄る事はなかった。
残ったのは、ドラえもんの後に不自然に画像が途切れたテープと、
兄二人の心の中での親父へのエロ疑惑だけだった。
 
 
 
 
 
とても暑い夏の日のことだった。




戻る