「美味ちんぼ」


メメタァ!
 
 
 
 
恒例の「意味のない叫びから開始する日記挨拶集」からの引用で始まりました。
さて、みなさんにしても記憶に新しいところであると思いますが、そう、僕はと言えば地方行政から
脅しすかされて「オメエさっさと金払わねえとドエライことになんぞ?アア?」という旨のハガキを送り
つけられたのです!
まあ要するに水道料金滞納したから払ってくれないと水道止めちゃうよ?とかそんな感じ。
 
 
給水停止執行日は2月7日。大胆にして豪放な僕としてはギリギリの段階まで納付を見合わせ
ておこう、もしかしたら明日あたりにビン・ラディンとか金ナントカあたりが日本に向かって素敵なプレ
ゼント(主に核を搭載した)を送りつけて国家が転覆するかもしれないからギリギリまで滞納しよ
う、と思っていたのですが、7日と言えば土日をはさんだ月曜日。つまり今日払わなければ月曜し
かタムリミットがないということに。
 
月曜日はバイトがあるので水道局に行くのは不可能です。となると今日しかない。面倒くさい。
行きたくない。そもそも金がない。請求金額が11,712円なのに銀行には487円しか入ってない。
ない、ない、ない。ナイナイ・ナーイ!
 
と、魔法を唱えるように叫んでみてもすべては虚しくこだまするだけで…。
 
いきおい「このままバックレちめえ!」との建設的なマインドを抱いてしまいかねないところですが、
よくよく考えてみると僕には共同生活人−戸籍上の兄−がいるため、僕の決断は必然的に兄
貴にも影響を及ぼすのですね。一蓮托生というやつです。
 
僕の兄貴といえば夜寝る前にシャワーを浴び、朝起きてからもシャワーを浴び、という比類無き
ウォーターユーザー、水の申し子なことは皆さんにとっても共通の認識だと思います。しずかちゃん
よりもしずかちゃんみたいな感じというか。
 
だから断水されようものなら、それが僕にどんな禍福をもたらすかは言うまでもない。禍福というか
明らかに禍しかない。そう、つまり圧倒的な武力を盾にした殺戮、虐殺、ジェノサイド−−つまり
ボコボコにされるとかそういう類の武力行使−−が行われるのは想像に難くありませんね。
だから僕に残された道は二つしかなかった。
 
@水道料金を納付する
 
A兄貴を屠る
 
 
@・・・は既に論じてきたところであります。なるべくならば行使したくない手立て。
 
Aです。読めますか?「ほふる」と読みます。意味としては、そうですね、ものすごくマイルドに言い
表すと殺すとかそういう感じ。
 
常識のある一般人ならば、おそらくAを選択するのではないかと思いますし、僕としての気持ちも
そのように固まりつつあります。行政の飼い犬になるくらいならば、むしろ名誉ある殺人に手を染
めたい!と叫んで死んでいったのは三島由紀夫…じゃなくて…えっと…
 
まあそんな感じでですね、納付書をメリメリと破り捨てて、行政に対する恨みを抱きつつ僕は包
丁を研ぎ始めた。
 
カシュッ!
カシュッ!
ウヘ、ヒヘヘヘヘ…殺ってやる…殺ってやんよ…!
 
ふと、包丁を見てみる。
丹念に研ぎ澄まされた包丁は、先ほどまでとは様相を異にし、まばゆいばかりの光を放っている
ではないか!
 
う、美しい…。
 
 
「きみ、その包丁…!」
 
僕 「え…?」
 
「…すばらしい!すばらしいよ!これこそ長年僕が求めていた包丁に相違無い!頼む、この包
丁と一緒に僕と来てくれ!」
 
 
それから僕の人生は一変した。彼の名は岡星さん。「岡星」という小料理屋を経営する若き職
人だった。彼に見初められた僕は、そのまま岡星に勤めることになる。そして料理人としてメキメキ
頭角を表した僕は、そのまま名職人としての階段を軽やかに駆け上がって行った−−−(完)
 
 
 
(出典 「美味ちんぼ」 第298巻より)
 
 
 
 
…と、一しきり妄想と戯れたところで本題に入ります。
まあぶっちゃけて普通に払いましたよ。だってしょうがないじゃない。払わなければならないんだし。
 
で、この納付場所ってのがまた遠くてねー。最寄の駅から歩いて15分とか書いてやがる。
ハ?おまえ自分が強い立場だからってあんまり調子くれてんじゃねっぞ?
大体がよー金払うのはこっちだっつーこと認識してんのかよ?
こっちは消費者様なんだよ。つまり神。ガッドなんだよ。
それをてめえらよー、ハガキまで送りつけやがって。自殺志願者かクラッ!やってやんよいつでもや
ってやんよ!?
 
 
「はい、では11,712円ですねー」
 
僕 「はい」
 
 
なんてね、まあ僕も既にいい大人っていうか、昔はパワーがあったっていうか。
いつまでもワルではいられないでしょう?
そういう冷静さを忘れない僕って、好きです。抱かれたい。自分に抱かれたい。
 
 
「えーと、それでは後二ヶ月分が未納ですけど」
 
 
 
久しぶりに・・・キレちまったぜ・・・!
 
 
ふざけんなよ!俺からいくらせしめようってんだよ水道局さんよー!?
ア?こっちがいつまでも大人しい羊だと思ったら大間違いってこと、体に分からせてやろうか!?
屋上に出ようや…!
 
 
 
僕 「すいません、今日はちょっと・・・持ち合わせが・・・」
 
 
カネ、カネ、カネ。カネにまみれた世の中。
そんな汚い世の中で、「NO」と言える僕みたいな人間が、あとどれくらいいるんだろうか…?
なんだかとっても悲しいよ・・・。
 
 
つまるところ、水道局への残り1万円くらいの債務を残したまま、僕はその地を後にした。
手に残ったのは幾ばくかのカネ。
寂しくはない。寂しくなんかないんだ。
なぜなら僕には、電脳の世界(インターネット)が、あるじゃないか・・・。
 
 
 
 
 
(ガチャ)
(ハラリと落ちる何か)
 
 
 
「電気使用量請求書 6700円 東京電力」
 
 
 
 
カシュッ!
カシュッ!
 
 
ウヘ、ヒヘヘヘヘ…殺ってやる…殺ってやんよ…!(永遠に続く)




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